新型コロナとインフルエンザ 2つ同時に感染した場合
・ウイルス干渉とは?
複数の呼吸器系ウイルスが同時に流行している時期に、人が同時に、あるいは連続してウイルスに感染することでお互いの感染に影響を与えることがある。
例えば、新型コロナウイルスに感染した人が、その後にインフルエンザに感染すると、新型コロナウイルス感染症の経過がインフルエンザウイルスによる影響を受けるということだ。
これは「ウイルス干渉(Viral Interference)」と呼ばれ、1960年代から複数のウイルス間の相互作用について研究されている。
・例えば、あるウイルスに感染すると一時的に自然免疫によりインターフェロンが誘導され、次に感染するウイルスの増殖を抑える作用が起こると考えられている。
簡単に言うと、人があるウイルスに感染すると免疫が活性化するので、その時期に他のウイルスが入り込んできても追い払われることがある、ということだ。
・これは、マウスの実験や人でも証明されているし、疫学的にもRSウイルス感染症とインフルエンザの流行時期がずれることはこの「ウイルス干渉」が関係しているのではないかという報告もある。
新型コロナとインフルの同時流行は起こらないのか?
・ではウイルス干渉があるから新型コロナとインフルの同時流行は杞憂に過ぎないのか?
残念ながら、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスとのウイルス干渉については研究がまだ十分ではなく、相互に与える影響については未知の領域だ。
しかし、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスとの間のウイルス干渉は、少なくとも人にとって良い方向には働かなさそうという報告が増えてきている。
・今年の5月から6月にかけて南半球のオーストラリアで新型コロナ発生以降初めてのインフルエンザの流行がみられた。
この時期、オーストラリアでは1日あたり2万〜6万人の新型コロナの感染者が報告されており、まさに同時流行が起こった。
つまり、新型コロナとインフルエンザのウイルス干渉により同時流行は起こりにくい、という期待は現時点では楽観的すぎるかもしれない。
・新型コロナが出現してからの数年間、ほとんどの地域でインフルエンザが全く流行しなかったのは、新型コロナの感染対策が徹底して行われたこと、海外からのウイルスの流入が激減したことなどが原因であり、感染対策も緩和が進み、海外からの旅行者が急増している今シーズンは同時流行の可能性は低くないと考えられます。
新型コロナとインフルの同時感染では重症化しやすくなる
・ウイルス干渉には疾患の重症度や病原性を悪化させるものもあり、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの組み合わせは、この悪い方のウイルス干渉に当てはまる可能性が指摘されている。
ハムスターを用いた実験では、それぞれのウイルスに単独で感染させた場合よりも、同時にあるいは連続して感染させた方が重症度が高くなるという結果だった。
イギリスでの調査では、新型コロナに感染した6965人について呼吸器系ウイルスとの同時感染を調べたところ、227人がインフルエンザウイルスと同時感染していた。
インフルエンザと同時感染していた患者は、新型コロナ単独感染の患者よりも4.1倍人工呼吸管理となりやすく、2.4倍死亡しやすいという結果だった。
これらの結果からは、新型コロナとインフルエンザのウイルス干渉は、悪い方に働く可能性が高いと言える。
今シーズンは新型コロナ、インフルエンザの両方に備えよう
・今年は新型コロナとインフルエンザの同時流行が起こる可能性があり、また万が一同時感染ということになれば重症化につながるかもしれない。
すでに同じ北半球のアメリカでも増加傾向にあり、日本国内でも大阪府などで報告数が増えてきている。
・これらが必ずしも同時に流行のピークを迎えるというわけではないが、それぞれの感染症についてしっかりと備える必要がある。
インフルエンザワクチンについては10月から全国の医療機関で接種が開始されている。
また、新型コロナワクチンについては、オミクロン株対応ワクチンが接種できるようになっている。
・当初は新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは同時に接種することで副反応の増強や有効性の低下が懸念されていたことから、同時接種はできなかったが、同時接種を行ってもそれぞれのワクチンの有効性が損なわれることはないことが分かったこと、そして副反応についても特に増強することがないことが分かったことから、今シーズンから同時接種が可能となった。
また、同じ日でなくとも、14日空ける必要はなく「接種間隔についても問わない」となった。
例えば今日インフルエンザワクチンを打って、明日新型コロナワクチンを接種する、ということも可能になった。
これにより、柔軟に接種スケジュールを立てることが可能となった。
参考
新型コロナとインフルエンザ 2つ同時に感染しうるのか?同時感染すれば重症化しやすいのか?
(大阪大学医学部 感染制御学 忽那賢志教授)
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20221029-00320655
<参考>
感染対策として重視されるのはワクチン
オミクロン株に対応したワクチンの接種が10月より開始されました。
その後BA.5に対応したワクチンも登場し、当院でも2022年11月1日より接種可能となりました。
これらの2価ワクチンは、これまで接種されてきた従来株とオミクロンBA.1ないBA.5の2種類に対応した「2価ワクチン」で、初回接種(1・2回目)を完了している12歳以上の人が対象です。
●新ワクチンの効果
2022年6月、アメリカのFDA(食品医薬品局)にファイザー社とモデルナ杜が提出た、BA.1に対する2価ワクチンの効果の資料が公開されています。
ファイザー社の臨床試験の結果では、4回目に2価ワクチンの接種をすると、従来のワクチンに比べ、BA.1の働きを抑える中和抗体の値が平均で1.56〜1.97倍上昇したといいます。
モデルナ社も従来のワクチンと比較すると、中和抗体の値が平均で1.75倍上昇したと報
告しています。
また、両社とも、現在流行しているBA.5に対しても、BA.1に対する効果には劣るものの中和抗体の値に上昇がみられたと報告しているので、BA.5に対する感染予防効果はある程度期待できると考えられます。
国立感染症研究所が8月に発表したデータによると、従来のワクチンでもBA.5に対する発症予防効果、重症化予防効果がともに高まる可能性を示しています。