ヒトの寿命は本来55歳?
・63年時点で153人だった日本の100歳以上人口は、54年後の2017年には6万7824人に増えた。
2050年には50万人以上になると予測されている。
・2016年、米国の研究チームが「人類の年齢の限界は115歳」という論文を科学雑誌「ネイチヤー」に発表した。
これまでの人間の最高齢記録を分析したところ、1960年ごろには110歳前後に、90年ごろには 115歳前後に伸びたが、それ以降は伸びが鈍化している。
・記録上、最も長生きしたのは1997年に122歳で亡くなったフランス人女性だが、この人は例外中の例外らしい。
日本でもこれまでに115歳を超えた人は10人もいない。
このあたりが生理的限界、という説には説得力がある。
・しかし、遺伝的に定められた人間の寿命はずっと短く、55歳程度ではないか、と考える学者もいる。
この年齢あたりから、癌で死ぬ人の数が急増するからだ。
癌は、細胞分裂時にDNAの複製エラーが生じることで発生する。
人体にはエラーを防ぐさまざまな仕組や、癌化した細胞を排除する免疫システムが備わっているが、年齢を重ねるにつれて複製エラ
ーの確率は高まり、免疫系は衰える。
結果、 癌を防ぎきれなくなる。
・人間が他の動物と比べて長生きするようになった理由として「おばあちゃん仮説」という理論がある。
人間の子育てには大変な手間がかかる。
子供が産めなくなった後も長生きして今度は孫の世話をすれば、より多くの子孫を残すことができ、人類全体にとっても有利。
だからヒトは長生きに進化した、という仮説だ。
とはいえ、それで伸びた寿命も55歳ぐらいまでで、ひいおばあちゃんになるまで長生きしても、それほど子育てに役立つとは思えない。
(コメント:言ってみれば男性は「無用の長物」という仮説です)
・55歳以降の人生は、公衆衛生や栄養状態の劇的改善、医学の発展という「文明がもたらした生」と言える。
人によっては50年にも及ぶ、この「新たな生」をどう生きるか。
人類史上未曽有のことなので、容易に答えは出ない。
・従来の社会で高齢者に求められたのは経験に基づく「見識」だった。
年と共に脳の細胞数は減少するが、これは決してマイナス要因ではなく、余分な細胞が整理されて脳の回路が洗練され、短時間で的確な判断を下せることを意味する。
・これからは見識だけではなく、実質的な「貢献」も求められる。
少子高齢化が進めば、世代の新陳代謝の速度が鈍り、「種としての人類」の脆弱化につながりかねない。
孫だけではなく、幅広い次世代育成のために高齢者に何ができるか。
真剣に考える時が来ている。
引用
The Asahi Shinbun GLOBE 2018.1No.201
(東京大学分子細胞生物学研究所・林武彦教授)