甲状腺機能亢進症
・日本甲状腺学会から公表された「バセドウ病治療ガイドライン2019」においては,抗甲状腺薬の初期投与量等が大きく変更されている。
従来のガイドラインでは、血中遊離T4が5ng/dlを超えるような場合、チアマゾール30 mg/日投与が推奨されていた。
しかしながら,高用量の抗甲状腺薬は無頼粒球症等の重篤な副作用の発生頻度が高いことが示されてきた。
そのようなエビデンスに基づいて、新ガイドラインではチアマゾールの初期投与量を15mg/日にとどめ、無機ヨウ素薬(ヨウ化カリウム)の併用を推奨している。
それによって,より速やかな血中甲状腺ホルモン濃度の低下や副作用頻度減少も期待できることが示されている。
・抗甲状腺薬の副作用には肝機能障害もあるが、甲状腺中毒症自体も肝機能障害をもたら
す。
従って,抗甲状腺薬投与開始後まもなく肝機能障害が悪化した場合,抗甲状腺薬による副
作用か甲状腺中毒症によるものか判別困難な場合がある。
・可能であれば、抗甲状腺薬を継続しながら経過観察することが望まれる。
甲状腺中毒症による場合、抗甲状腺薬投与後1ヵ月程度までの期間にAST100(IU/l)をピークとして、甲状腺中毒症改善に伴って2〜3ヵ月後には肝機能は改善傾向に向かう。
従って,上記程度の肝機能異常であれば抗甲状腺薬を継続しながら経過観察することが可能と考えられる。
・チアマゾールの場合、1年以上の期投与後、半年以上2.5 mg/日の投与で甲状腺機能のコントロールが可能な場合、寛解の可能性がある。
抗TSHレセプター抗体陰性化や甲状腺腫縮小なども参考になるが、それでも半数が抗甲状腺薬中止後に再燃する.
・ただし、抗甲状腺薬中止後に甲状腺機能の軽度悪化や抗TSHレセプター抗体の軽度陽性化が見られた場合、しばしば一過性であることがある。
多くの症例は数カ月の経過で甲状腺機能正常な範囲となるので、このような一過性の甲状腺中毒状態に対して、すぐに抗甲状腺剤を再投与するのではなく、しばらく経過観察することも可能と考えられる。
参考
「甲状腺診療における注意点」(赤水尚史先生)
日内会誌111巻3号